2025-06-04
JOIN THE SEA ISLAND CLUB!【海島綿Webマガジン第3号】
今月のトピックス
✅ 海島綿セミナー開催報告
さる5月21日(水)、久しぶりに海島綿セミナーを開催しました。
かなり暑さの厳しい日であったにもかかわらず、事前登録と当日受付を合わせて126名もの方にお越しいただきました。(こんな大勢の前でお話しするのは初めてで、相当緊張しました)
「再発見!海島綿」というタイトルが示すように、海島綿未経験者だけでなく、経験者の方にもこの素材に関する新しい視点を持ち帰っていただける事を目標にプレゼンテーションの準備をしました。各社、各ブランドそれぞれ特色のある顧客層をお持ちと思いますが、何かしらその層に響く海島綿の一面があるはずで、それを皆様に発見していただこう!ということです。
それでは、当日の内容についてダイジェストでご紹介します。
第1部「そもそも海島綿って?」
ここでは海島綿の基本についてお話ししました。基本は大事!ということで2部構成ながらも時間の過半を使用してじっくりと。
まずは綿花全体の中の海島綿の位置付けです。24/25年度の統計数値をもとに海島綿の希少性が語られます。それによると、全ての綿花の中の海島綿の数量は26万分の1と計算されました。
確かに希少な綿ではありますが、この点はおそらく皆様も既にご存じだったかと思います。このセミナーではそこから先に話が続きます。つまり、「希少なら何でもっと作らないの?」という至極真っ当な疑問への答えです。
実際昔の人も同じように考えて、海島綿を世界中に移植する試みがなされました。しかしそのどれもが失敗したのです。海島綿の栽培にはふんだんな日光や季節のサイクルと栽培サイクルの調和というように適切な自然環境を必要とすることに加え、虫害に弱く畑の管理も難易度が高いからです。しかし、これらの試みには副産物がありました。それが今、超長綿として知られる栽培品種の数々です。海島綿そのままでは商業栽培が難しかったため、現地種との交配が進められ、代替品としてGizaやPima、Suvin種が生まれることとなりました。
これらの試みの一方で、純粋な海島綿のアメリカを含むカリブ海周辺で揺れ動く産地の移り変わりが説明され、現在では海島綿産地はジャマイカとアメリカ合衆国南西部の2か所しかないという結論をもって第1部から第2部へ移ります。
第2部「海島綿の魅力を3つのキーワードで」
ここでは海島綿にフォーカスを絞り、そのクオリティ、(確かなトレーサビリティからくる)安心感、ストーリー性という3つのキーワードに絡めて語られました。
クオリティについては海島綿の特徴として超長綿の中でも圧倒的な繊維長と油脂分について述べられました。これらの特性が繊維の均一性や天然撚りなどと相まって海島綿の糸の柔らかさ、ふくらみ、「ぬめり感」に繋がります。
トレーサビリティと安心感においては一般の綿花では畑までその履歴を追うことが難しい一方で、契約栽培をしている海島綿ではそのサプライチェーンの構造が全く違うものであることが示されました。
一般の綿花がもつ一直線のサプライチェーンに対し、海島綿は弊社が傘のように各ステークホルダーを見守る形となっており、お客様からの要望にすぐに応えられるだけでなく、サステナブルな栽培を含む事業全体の透明性も確保できる体制になっています。
最後の海島綿が持つストーリー性では、500年の歴史を持つ海島綿ならではの数々のエピソード―特にイギリス王室にまつわるものを中心に―ご紹介しました。海島綿の服を着るということは、これらの歴史の登場人物との繋がりを持つことともいえます。
以上、当日のダイジェストでした。
ところで最後の繋がりに関してちょっと補足です。海島綿が提供する繋がりは何も歴史的なものだけでなく、例えば農家との直接な繋がりもあります。我々は毎年畑へ赴き、お客様の目となり耳となりその様子をお伝えします。お客様も現地にいるような雰囲気を感じ、自分が身に着けるものがどのように生まれているのか追体験していただけるようなレポートとなるべく心掛けています。
「大きな物語」というものが無くなり、消費者の関心が細分化しニッチへと向かう流れになって久しいですが、ヒトとして繋がりを求めるという欲求は無くなることはありません。背景が確かであるからこそ安心してご使用いただけ、着て使って気持ちの良い素材である海島綿は、このような要求に高い次元で応える素材といえます。
なお当日ご都合が合わずご参加いただけなかった方もいらっしゃいましたので、Web上でもセミナーをご覧いただけるようにすることとなりました。公開日が決まりましたらニュースでお知らせしますので、どうぞお楽しみに!
✅ 海島綿豆知識 #2
「海島綿にも種類がある??」
皆様は海島綿にも種類があることをご存じでしょうか。ジャマイカと米国という二つの産地とは別のお話です。どういう事でしょうか?
現在のジャマイカと米国における海島綿の商業栽培では、どちらもMSIと呼ばれる種類の種子が使われています。MSIは頭文字で、SIはSea Island、すなわち海島綿を表します。頭文字の「M」はMontserratの略で、MSI種はすなわちモンセラットというカリブ海の島国由来の海島綿の栽培品種となります。
19世紀後半に下火になっていたカリブ海における海島綿栽培は、20世紀初頭のリバイバル後はモンセラットを含むカリブ海東部の小さな島々(小アンティル諸島)でなされてきました。1930年代ごろまでは各島で独自の栽培品種が栽培されていましたが、品質の均質化や種子生産の効率化などのため徐々に集約されていったようです。
1950年ごろに英国が作成した世界中の植民地における特産品の目録を見ると、この頃には既に海島綿の栽培品種は上記MSI種とV135種の2種類となっていました。このV135とはセントヴィンセントという島で栽培されていた栽培品種で、優れた品質を持つ一方で生産性が低く、最終的に海島綿の栽培品種はMSI種に統一されました。
このV135種は短い期間でしたがベリーズという国で海島綿協会が持っていた直営農場で復活栽培がなされたことがあります。しかし、ベリーズの農場の閉鎖と共にV135の原綿はまた手に入らなくなってしまいました。再び眠りについたV135の種が芽を吹くときはやってくるのでしょうか。。。?
あとがき
「海島綿の種類」といえば、時々面白い話が舞い込んできます。中国で海島綿の糸を手に入れて製品を作ったので下げ札が欲しいとか、ハワイで海島綿を育てたので買ってくれないかとか。そういう類のお話です。
先日も南米の某国から「シーアイランドコットンを栽培しているので協業しないか」というお話が来ました。「またかー」と思いつつ何度かやり取りしてみると、案の定使用している種はペルーピマということがわかりました。それを○○シーアイランドコットンとして売るというのです。
「ピマ種を海島綿として販売するのは如何なものでしょうか」と伝えると、ヨーロッパでは問題ないことだというご返答でした。
「欧米か!」って感じですが、確かにヨーロッパには「シーアイランドクオリティ」という表現があると聞いたことがあります。でも明らかに違うものを「シーアイランド」と言い切るのはたとえヨーロッパでも駄目だと思います。日本だと、あきたこまちをコシヒカリという名前では売れないですよね、とお伝えすると一発で納得いただけるのですが。
あちらでは原料以上の量のシーアイランドコットンの糸が流通しているという情報もあります。同じシーアイランドコットン糸でも供給国によってトレーサビリティの度合いには大きな差があるのです。
何はともあれ、今回のセミナーに参加されて、海島綿と超長綿の違いもご理解いただいた皆様は、今後このような話に乗らされることはないと思います。(ITO)