シーアイランドクラブ

2021.03.25

新生シーアイランドコットン

編み機に掛かるその糸を見たとき、「糸が輝いている。。。」と思わず呟いてしまいました。その糸は「WISIC90/1」、すなわちカリブ産シーアイランドコットンの90番単糸です。私たちが定番として展開する18番手から140番手までの糸の中でも、いわゆる細い方に分類される糸です。

私たちはこの5月に東京国際フォーラムで開催される展示会Premium Textile Japanへの出品に向けて、この糸を使った生地を編んでもらうために、千葉県旭市飯岡地区にある常世田繊維さんへお邪魔してきました。

常世田繊維さんは、以前より弊社で販売する生地の幾つかを手配いただいている株式会社トコヨダさんのグループ会社です。我々が到着したときには既に糸は編み機にセットされ、試験編みが始まっていました。

今回あえてお願いをして編立の現場を見せていただいたのは、シーアイランドコットンの糸がどのように生地になり製品になっていくのかを、このWebページをご覧の皆様にご紹介していきたいということが第一にありますが、私たち自身が「この糸」を見たいという別の理由もありました。

この連載の第1話でご紹介させていただいたように、シーアイランドコットンの紡績を一手に引き受けていただいている近藤紡績所さんは、その大町工場において「海島綿プロジェクト」を進めてきました。世界最高峰の綿糸を生産することを目指し、紡機の更新も伴う大掛かりなこのプロジェクトは、コロナ禍の影響による遅れを乗り越え、ついに実際の糸が出てくるところまでやってきました。

この編み機に掛かっている糸は、このプロジェクトの成果として最新のスペックで引かれた90番手の最初の糸になります。それゆえ、是非とも生地だけでなく糸そのものも見たかったのです。はたしてどのような糸なのか。見た目では分からないかもしれないという一抹の不安もあったのですが。。。

しかし、編み機に掛かっている糸は艶やかに輝いていました。糸の品質データによると、糸のムラ度合いや、毛羽の数が目に見えて改善しています。つまり先月のコラムでお書きしたように、より均一な糸に仕上がっているために光の乱反射が少なく、それが糸の光沢として現れているのだと思われます。編み機を動かされる常世田繊維さんの社長にお聞きすると、細番手の単糸でありながら糸切れもなく、強度面でも全く問題がないとのことです。

試編みの編地を見せていただき、少し度目(編み目の大きさ)を詰める再設定をしてもらい、本番へと進行していただきました。

なお再設定後の度目は、通常だと100番手の糸向けに使用される設定ということを、あとでお聞きしました。つまりこれは今回使用の90番手より更に細い糸に向いた設定なのですが、編みキズもなく編み終えることができたそうで、「シーアイランドコットンの糸は滑りが良いのかな」とおっしゃっていました。そういえば別のお客様からは、使われている編み機のゲージ(編み針の並びの密度)に適した番手より多少糸が太くても、シーアイランドは糸が機械に「入っていく」とお聞きしたことがあります。そのお客様は「さすが油分が多いというだけのことはある」とおっしゃいました。

このように使い勝手(これも広義の品質といえますが)の点でも評価していただくのは糸を販売するものとして嬉しいことであります。

さて、編まれる間に、株式会社トコヨダ常世田社長の「天気も良いので海辺でシーアイランドコットンの写真を撮ってみようか」というご提案で、予備のコーンをもって歩いて5分ほどのところにある海へと向かいます。

その数時間前、東京から常世田繊維さんへと向かう車中で、2011年3月11日、旭市にも津波が到来し、常世田繊維さんの数メートル前まで海水がやってきたという話を社長から伺っていました。

この飯岡地区は死者・行方不明者15名、家屋の全壊427棟をはじめとする甚大な被害を受けていたことを、あとで当時の報道を通じ知りました。飯岡海岸は九十九里の東端に位置していますが、このような開けた所でも最大6メートルもの津波が起き、これだけの被害をもたらしていたという事実を、恥ずかしながら知りませんでした。

あれから10年後の飯岡の海岸には、以前の護岸よりさらに高さを増した堤防が出来上がっていました。しかし護岸下を並行に走る車道を挟んだ反対側の土地は今なお空き地が目立ち、通り沿いで見た津波からの緊急避難用のタワーとともに、ここは東日本大震災の被災地なのだという事実を物語っていました。

朝方東京を出発した際は曇っていましたが、午後には気持ち良い日差しがでてきて、海風の気持ち良い日よりでした。同行するカメラマン役のF氏が堤防に這うようにしながら、風で倒れそうな糸のコーンをかばいながら懸命に撮った写真、せっかくなので掲載しましょう。

編み機のもとへ戻ると、本番の編地が数十センチ出来上がっていました。再びそれを切り取っていただき、手に取るとつるつると滑らかな肌触り。私が「キバタ(加工前の生地)なのに気持ち良いですね」と言うと、社長は「原料の差が一番出るのがキバタなのです」と仰いました。

なるほど。「キバタなのに」ではなく、むしろ「キバタだから」こそ、なのですね。

私たちが社長にお願いしたのは、「糸の良さが素直に出るような仕上げ」という幾分抽象的なものでした。具体的なところはその分野のプロフェッショナルにお任せするところが大ですが、なるべくこの原綿が持つ風合いを損なわないような仕上げにしていただけると思います。

この項を書いている時点ではまだ完成していませんが、5月の展示会では皆様にもご覧いただけるはずですので、お楽しみに!

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