シーアイランドクラブ

2021.02.09

シーアイランドコットンが「特別」な訳 第1話

~その希少性~

ここからはシーアイランドコットンそのものの「特別」さを表す幾つかの「キーワード」について数回に分けて掘り下げていきたいと思います。

今回のキーワードはシーアイランドコットンの「希少性」です。

以前からシーアイランドコットンをご存じの方や、このWebページをよく読んでいただいている方は、「幻のコットン」、「全綿花の数十万分の一」といった表現を目にされたことがあるかと思います。

「幻のコットン」という表現は、もともとは英国の数社の紡績会社しかシーアイランドコットンの原綿を取り扱うことを許されていなかったという、数十年前までのいわゆる門外不出の時代から来ていると思われます。その後、日本でも紡績が始まるのですが、そもそも絶対量が少ないので、それだけ目にする機会が少ないという意味も含まれています。

それでは「数十万分の一」とも言われる絶対量の少なさを具体的な数字で見てみましょう。

アメリカの農務省が出したすべての綿花を合わせた2020-21綿花年度の予想生産高は2,530万トンだそうです。ここで綿花年度とは綿花の栽培に合わせた8月から翌7月までのサイクルで、この数字は2020年の夏、つまり期首時点の予想です。

一方で、同じ年度の超長綿の予想生産高は今年1月の時点で33万トン余りです。ピマやギザやスビンや新疆といったみなさんご存じのブランド超長綿だけでなく、すべての種類の超長綿生産高がコットン全体に占める割合が1.3%ということになります。試算時期のずれがあるので、コンマ数%の違いはあるかもしれませんね。

つまり超長綿自体が全体に占める割合が、そもそも低いものとなります。近年紡績技術が発達し、繊維が短いために栽培期間が少なくて済むすなわち価格の安い長綿でも比較的細い糸が引けるようになっているため、超長綿品種の中でも特徴の少ないものは需要がジリジリと下がっていく可能性も指摘されています。

ではこの物語の主役のシーアイランドコットンの年間生産量はどうでしょうか。取扱業者が極端に少なく、カリブ産シーアイランドコットンでは世界でも弊社を含めて数社、アメリカン・シーアイランドコットンに至っては弊社のみと市場に出回らないコットンですので、年ごとの変動は大きいです。そのような前提はありますが、あえて数字を出してみますと、カリブ産は多い年でも4~50トンほど、アメリカ産はその数倍という規模になります。

計算を簡単にするため全ての綿花を2,500万トン、カリブのシーアイランドコットンを50トンとすると、「50万分の1」という数字に行きつきます。超長綿のカテゴリーに限定しても何千分の1というオーダーです。

確かに非常に少ない、つまりシーアイランドコットンの希少性が高いことは間違いないようです。

ならば勿体ぶらずにもっと作ればいいのにと思うのが人情(?)ですが、シーアイランドコットンにはそうはいかない事情があります。これまでこの物語を欠かさず読んでいただいた方はピンとくるかもしれません。

過去100年余りのあいだシーアイランドコットンはカリブ海地域でしか栽培されないコットンであり続けてきました。近年新たにアメリカ産のシーアイランドコットンが加わりましたが、この二つの産地のシーアイランドコットンに共通するのはその生育環境の特異さでした。

カリブ海地域の降雨サイクル、日照時間、土壌、害虫の種類の少なさ、はては海からの風の吹き方に至るまでの諸々の条件の組み合わせが、理想的な綿花栽培の環境を生み出していました。しかし悲しいかなカリブの国々は島国。それぞれの国が発展し人口が増えるにつれコットン栽培に割ける土地はどんどん減っていきます。また、観光業をメインとするサービス産業が発達してくると、コットン栽培に必要な人手の確保に苦労する国も続々と出てきます。

私がシーアイランドコットンに関わってきた十数年の間にも、栽培国はアンティグア、ネーヴィス、ベリーズと移り変わり、現在はジャマイカとなっています。さらに昔に日本とも取引のあったバルバドスなどは、収穫時のピッカーさんの募集が思うようにいかず、南米のガイアナから季節労働者を連れてくるというアイデアが真剣に検討されるほどでした。

ならば大規模な綿花栽培国の様に、収穫も機械化してはどうかという話になりますが、カリブ海地域のシーアイランドコットンはコットンボールがはじけるタイミングがまちまちで、収獲期間が数か月にわたり続きます。1本のコットンの樹にはボールが数十個付きますが、各々のボールは樹の下から上へ、枝の根元から先へと時間をおいて成熟していくため、開いたものから順に一つずつ手作業で収穫していくことが必須となります。

開いたコットンボールは間を置かずに収穫してやらないと風で飛んだり汚れがついたりするだけでなく、タイミング悪く雨が降ってしまうと綿毛の根元にある種が樹になったまま発芽してしまうこともあります。このため、一度で終わらせることが前提の機械収穫にはそぐわないのです。

余談ですが、カリブ海産地は常夏のためコットンの樹は放っておくと繰り返し花をつけ、コットンボールがなり続けます。しかし、コットンの樹は毎年最初の収穫サイクルが終わると切り倒され、翌シーズン新たに種から植えなおされます。これは主として害虫のコントロールのためです。一年のうち数か月コットンが存在しない期間を設けることにより、カリブにも存在するピンクボールワームというシーアイランドコットンの天敵となるガの幼虫などが増え続けることを防いでいます。

一方のアメリカン・シーアイランドコットンも、前回・前々回とお伝えしたようにカリブ海と見かけの特徴は違いながらも結果としてコットンにとって理想的な自然環境に恵まれながら、車で20分も走ればもう気象が変わってしまうという土地の少なさが制約条件として存在します。また国レベルでコットン栽培の意思決定を行うカリブ海諸国と違い、個々の農家の判断が全てのアメリカでは、信頼できる農家さんとの繋がりが大事であり、そしてそれは簡単に得られるものでもありません。

アメリカン・シーアイランドコットンがカリブ海産に比して優位なのは、何といっても機械による収穫が可能なところです。これは地道な品種改良の結果であると同時に、この土地に見られるキリングフロストという自然現象によりコットンボールの開くタイミングがある程度揃えられることにより可能になったのでした(下に両産地の比較写真を再掲します)。そのため、将来的な生産量の増加は今お願いしている農家さんだけでもある程度は可能なはずです。

現時点でエイヤとそれをしないのは、シーアイランドコットンのストーリーや価値を理解してご使用いただけるお客様が徐々に増えていく結果として生産拡大をお願いしたいという私たちの願いがあります。

特にカリブ産地において顕著なこれだけの苦労がありながらシーアイランドコットンをあきらめないのは、何をおいてもコットンにとって理想的な自然環境で世界最高級のコットンを自分たちの手で生み出す矜持と、「シーアイランドコットン」の名を冠する前のバルバデンセと呼ばれていた時代も含めると数百年続く伝統を残すという義務感と呼ぶべきものがあるのではないかと想像しています。

この希少なコットンの直接のユーザーである私たちも、シーアイランドコットンを大事に扱い、次代に残すという価値観を根底に持っており、そしてこの思いに共感してくれる方々を常に探しています。

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